母の幸せ
ほんとうは、こういうことについては、母を見送った後に書くべきなのでしょうし、楽しいゴールデンウィークの最中にふさわしい話題でもないとは思いますが、私もいつ死ぬかわからないので、書ける時に書いておこうと思います。
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老人の孤独死というのが話題になる時、それは「可哀想」という「負」の出来事としてとらえられます。
「人知れず死ぬ」ということに私たちはたまらなく寂しく残酷な印象を持ってしまいます。
でも、死ぬ時はみんな一人です。
たとえ、家族の見守る中、亡くなったとしても、みんなに見送ってもらったという事実が、死後温かい記憶として本人の脳裏に残るはずもなく、このこと一つとっても、「死」というのはやはり遺された者にとっての問題なのだなあと、思わざるを得ません。
たしかに、周りが早く異変に気づいて助かり、健康体に戻るということももちろんあるでしょうが、高齢の場合、それをきっかけに不本意な状態に陥ることも多く、あっという間に亡くなるのが本人にとっての幸せであることが往々にしてあります。
こういった事例については誰しも聞き及んでいることでしょうし、前の記事で取り上げた本にも色々書いてあります。
90歳になる私の母は、脳梗塞を3回、脳出血を一回起こし、そのたびに入退院を繰り返し、今寝たきりの状態(要介護5)で自宅介護を娘3人でやっています。
母には申し訳ない言い方ですが、「寝ていてくれる」ので、介護はとても楽です。介護ベッドも入浴も低負担でサービスが受けられますし、医師の往診もあるし、頼りがいのある看護士さんが「困った時はいつでも連絡してくださいね」とサポートしてくれます。
なにより、3人体制は心強いです。
入院していた時より脈拍も血圧も安定しており、顔色もとても良いです。
私たちも安心です。
姉妹でお喋りなどしながら「楽しい介護」をしていると言えなくもありません。
でも、母はどうなのでしょうか。
目がほとんど見えません。耳は聞こえますが、話しかけてもほとんど反応がありません。
何を考えているのでしょう。
何も考えていないのでしょうか。
もし、理性的に何かを考えられるとしたら、「こんな状態は死ぬより辛い」と思っているかもしれません。
母は元気な時から、折にふれて「絶対にああいう状態(寝たきり)にだけはしないでね」「ただむやみに生きながらえさせるということだけはしないでね」と、何度も言っていたのにもかかわらず、その願いを聞いてあげることができなかったのです。
母は時々涙を流します。
目が痛いだけなのかもしれませんので、目薬は差しますが、もしかしたらそうじゃないのかもしれません。悲しいのかもしれません。辛いのかもしれません。
つまり、本人の望みに関係なく、周りの善意が当の本人を不幸にしている、しかも、その不幸を取り除くことは絶対にできない、という皮肉な構図が出来上がっているとも言えます。
そういったことはこの世界中で数限りなく起こっていることでしょう。
それでも私たちは要介護者を、できるだけ快適に過ごせるよう考え努力します。
私たちのオムツを取り替えてくれた母を、今度は私たちが恩返しをしているだけのことなので、迷惑でもなんでもありません。
でも、もし私が母のような立場になったとしても、私は子供たちに同じことをしてほしくはありません。それは迷惑をかけて申し訳ないからではなく、そういう状態を自分が望まない、ただそれだけです。
たとえ、最新鋭の介護ロボットによっていたれりつくせりの世話をしてもらえるとしても、そしてエネルギー革命が起こってそういう作業にコストがかからなくなったとしても、そして介護保険医療保険のお金がたっぷりあったとしても、です。
私たちはきっと、「長い間よく面倒をみた。母もきっと喜んでくれているだろう。介護は満点だった」と満足しながら、母を送ることになるのでしょう。
でも実はその満足は決して母の満足ではないかもしれないのです。
こんなに長い間我慢をさせてほんとうにごめんなさい、と言うべきなのかもしれません。
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さあ、みなさん、ゴールデンウィーク残りの4連休、できる範囲で思い切り遊んできてくださいね!
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コメント
帰省して母の顔を見て来ようと思います。
投稿: 護国児 | 2008年5月 2日 (金) 16時44分
★護国児さん、
いってらっしゃいませ。
お気をつけて。
投稿: robita | 2008年5月 3日 (土) 11時11分
「つき指の読書日記」は下記の方へ移設しました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
http://plaza.rakuten.co.jp/tukiyubi1
投稿: つき指 | 2008年5月 4日 (日) 22時49分
初めまして。
3月10日に姉を亡くしました。脳出血でした。2月11日に倒れ、手術をし、その後2日間ばかり目をあけ(焦点は合いませんが)手をぎゅっと握りかえしてくれたことがありましたが、後は反応もなく静かに逝ってしまいました。52歳でした。倒れた直後は、医者から大変編重症で難しいと言われ、私個人は植物人間になってしまうのなら、可愛そうだから手術などしないで命にまかせたいと思っていました。しかし義兄は手術を選択しました。可愛そうに思っていた私もいつしか、生きているもののエゴで、病院に行けばそこに生きている姉がいる、肉体があると一筋の希望に感じるようになっていました。私も、こんな状態を姉自身はどう感じているのだろうかと苦しみながら。
よく、行いが悪かった人はいい死に方をしないとかいい言うけれど、母の知り合いのおばさんは、さんざん苛めた近所の人とすれ違う瞬間、突然倒れ、その人に抱きとめられ、無傷でその人の胸の中で息をひきとったそうですから、本人の死に様は、行いの良し悪しなんて関係ないと思います。
それより、その人が周りの人に何を残したか…。
お母様も私の姉も、死の直前まで(生きてらっしゃるのにごめんなさい)私達に色々なことを考えさせ、教えられるのは、私達に大きな価値のある生き方をしていたからだと思うのです。姉は、命の最後に私達に強烈に教えを残してくれました。明日のことはわからないんだよ、大切に生きるんだよって。
今まで、すぐ怠けたり、向上心が萎えたりしていた私ですが、今は違います。私が、変わってやり通せば、それが姉が生きてきた証になるからです。姉がかわることに気づかせてくれたのだから、姉は命がけで私に教えるという大事な仕事をしたことになるからです。
長くなってごめんなさい!時が少し経って、そんな風に思えるようになりました。専業主婦さんも今、大切な瞬間を過ごしてらっしゃるのですね。
投稿: house_wife | 2008年5月 6日 (火) 18時02分
★つき指さん、
はじめまして。
>「つき指の読書日記」は下記の方へ移設しました<
そうですか。存じ上げませんでしたが、後で見せていただきますね。
投稿: robita | 2008年5月 7日 (水) 10時05分
★house_wifeさん、
初めまして。
貴重なお話をありがとうございます。
お姉様を亡くされてまだ2ヶ月、ご心中お察し申し上げます。
>専業主婦さんも今、大切な瞬間を過ごしてらっしゃるのですね。<
本当に仰る通りです。
母にとってはどのような意味を持つのかはわからないのですが、周りの私たちにとっては、どれほど大切な時間だろうといつも妹と話しています。
この経験があるのとないのとでは大きな違いです。
回復の見込みのない高齢者を無理やり生かすことに残酷さを感じながらも、同時に、この葛藤の経験こそ大きな意味があるのではないのだろうか、と思います。
楽しい経験も辛い経験も、どんなことでも、全てのことには意味がある、とわからせてくれるのです。
>姉は、命の最後に私達に強烈に教えを残してくれました。
明日のことはわからないんだよ、大切に生きるんだよって。<
遺された者への最大のメッセージですね。
死に方は選べなくても、生き方は自分の意思でなんとかしなくちゃ、と私も毎日思ってることは思ってるのですが、それほど真剣になれなくて・・・。
まだまだ辛い経験が足りないってことでしょうか。
house_wifeさんのブログ、拝見しました。
始められたばかりなんですね。で、記事全部読んでしまいました(ざっとですけど)。
私、house_wifeさんのような主婦になることが目標だったんですよ。今となっては程遠くなってしまいましたけど。
家族のために快適な生活の場を提供するにはどうしたらいいかをいつも考え、しかもそれを楽しんでやっていらっしゃる。私にとって理想です。
私は友人たちから「そんなに根が生えたみたいに家にばっかりいるんじゃ、きっと家の中舐めるようにきれいにしてるんでしょう」なんて言われます。
「ウウン、ゼンゼン」と小さな声で上目遣いになってしまうのです。
たぶん書いたり読んだりで家事の時間を取られてしまうのでしょう。
でも、このごろ、少し意識改革しつつ(というか、元の理想に戻りつつ)あります。
人間、いくつになっても思考転換はできますね。
私はただ個人的な日常生活を描くだけのブログには興味はないのですが、house_wifeさんの記事はこれからも読みたくなるような主婦生活と情報が盛り込まれていますね。
コメントありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: robita | 2008年5月 7日 (水) 10時11分
こんにちは
お久しぶりです。
私も介護についてはいろいろ思うことありますが、
今日は風邪気味にて頭が回らず(いつものことですが)
とりあえず
>できる範囲で思い切り
に同感です。
ではまた。
お体大切に・・
投稿: いち | 2008年5月 7日 (水) 13時03分
★いちさん、
いちさん? いち、いち・・・・はてどなただったじゃろう、とおそるおそるお名前をクリックしてみましたら、なんですか、サンディさんですよね!
ご無沙汰しております。
いちさんのブログは写真がきれいですね。
ゆっくり見せていただこうと思います。
>私も介護についてはいろいろ思うことありますが<
いつかお話聞かせてください。
コメントありがとうございました。
投稿: robita | 2008年5月 8日 (木) 09時28分