保守と左翼
いわゆる「保守」の人たちと、いわゆる「左翼」の人たちとは考え方が似ている一面があります。
経済グローバル化や強者の論理に批判的であり、昔の日本人が持っていたとされる絆を取り戻すことに熱心であったりするところです。
だから、例えば、一見対極に位置する亀井静香と福島瑞穂が共闘する珍妙な場面が出現したりするのです。
しかしこれは最近の傾向ではなく、昔から(というか、左翼が自由主義経済社会で生きるため、ご都合主義に陥った時点で)保守知識人はそういうことを指摘していたようです。
先日の産経新聞「昭和正論座」で、故辻村明東大教授が次のように書いているのを読みました。(昭和57年2月5日の記事の再掲載)
≪(前略)__この都留(重人)論文は「自然と付き合って生きることの中に生活の内実の豊かさを求めている」ものらしいが、そんなことはとっくの昔に、保守的知識人が繰り返し指摘してきたことである。
だから社会主義革命に夢を託していた時代の都留氏は、確かにそこにはいないが、どうしてそのように変わったのか。その論理的な説明がない限り、それは単なるオポチュニズム(便宜主義)であり、日和見主義だといわれても致し方あるまい。私が批判したいことは「進歩的文化人」たちが「変わった」ということではなく、「変わった」ことについての論理的な説明がないということなのである。≫
私はもちろん保守派のほうが筋が通っているし断然好ましいと思っていますが、さりとて、自分としては断固として主義を貫く保守を全面支持するほどの信念がありません。
保守知識人の言論に深く感銘を受けるものの、やはり、時代の趨勢に合わせた現実路線をとったほうが利が大きいだろうと思うのです。「藤原先生と佐伯先生」
それこそ辻村氏の指摘するオポチュニズムなのでしょうし、人間の大半はそのようであろうとも思います。
もう何年も前に「幸せのつかみかた」という記事でこんなことを書いたことがあります。
≪人間というのはひとくくりにできない複雑な存在だ。
「筋を通す」だけでも生きられないし、「プライド」を捨てることも恥ずかしい。
世界中を見渡しても、筋を通すだけで生き延びている国があるか。また、誇りを捨てて卑屈一辺倒の国があるか。
みんな国としての誇りを持ちつつ、苦悩しながら、生き延びよう、より豊かになろうと、方針を変えたり保持してきたものを捨てたり新しいものを取り入れたりしてきたのではないか。
ここのところを理解すれば、日本人、世界の中で、もっとうまく生きていけるような気がする。≫
昔の価値観を保持し続けることに熱心な人がいてもいいし、易きに流れるのを戒める立派な人もいていい。「誇り」だけでは生きられないと思う人、儲けなければ希望もつぶれてしまうと思う人がいてもいい。
多様な価値観を持った国民がそれぞれに生きられるよう豊かな社会を維持するのが政府の役割だろうと思います。
そう考えると、昔の価値観に縛られた政官界を破壊しようとする小泉や橋下が現れたのは自然の成り行きだったと思います。
このまま、古い自民党型政治を続けていては、グローバル経済の中では日本は沈むばかりだ、そう考えたからこそ、多くの人が小泉、橋下を支持したのではなかったでしょうか。
保守派は、日本の伝統的価値観を大切に思うあまり小泉橋下に大きな違和感を覚え、社会主義者は、自立を促す改革を怪物のように恐れ、拒絶します。
ここで両者の思惑が一致するわけです。
しかし政治は国民の価値観を一様にするものではないと思います。豊かな国を作ることだけに専心すればいいのだ・・・とは言いませんが、政府の仕事としてはそれが大前提ではないでしょうか。
保守は左翼を嫌い、小泉・橋下・みんなの党といった「改革派」も嫌います。橋下やみんなの党を支持する大衆を「まだ学習せんか!」と叱咤します。
しかし、それでは、再び自民党が政権を担えばうまくいくかというとそれはだめ、ということもわかるはずです。
保守と左翼、両者から嫌われる橋下維新の会やみんなの党の力の使い方については、別の話になるので、またの機会にするとしましょう。
「自然と付き合って生きることの中に生活の内実の豊かさを求めることが大事」と思うのは自由ですが、人がそういう社会の恩恵を受けるためには、国は経済的に豊かである必要があると思います。少なくとも「普通に」豊かな状態を国民誰もが願っていると思います。
左翼が「今すぐ原発やめろ」とか「アメリカは沖縄から出て行け」などと、あとさきの考えなくデモをしたり、保守派が今までのやり方を保守したりするだけでは豊かさは維持できないんじゃないでしょうか。
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コメント
みんなの党のホームページに、意見を言う欄がある。
しかし、年齢やら電話番号やら、ありとあらゆる個人情報を書き込まなければならない。
これに耐える人がはたして何人いることか。
しかも、消費増税反対の弱小政党に意見を言っても無意味である。
投稿: どじょう | 2012年8月 8日 (水) 13時38分
★どじょうさん
ご意見ありがとうございます。
>年齢やら電話番号やら、ありとあらゆる個人情報を書き込まなければならない。<
他の党の意見フォームも見てみました。
たしかにみんなの党は電話番号必須となっていますが、その他は、他党とそんなに違わないと思います。年齢が必須になっている党もありますし。
「ありとあらゆる個人情報」というほどでもないと思います。たしかに電話番号を知られるのは嫌ですね。選挙の時に使うんでしょうか。
私は実は党首の渡辺喜美さんが信用できるかどうか疑いを持っています。消費税増税のことも賛成反対両方の意見を聞いてもどっちを信じたらいいのかよくわかりません。みんなの党、または維新の会がこの国をなんとかしてくれるとも思っていません。
ただ、古い自民党政治に見切りをつけた、というその一点で、利用価値があると思っているんです。
記事にします。あした書けるかどうかわかりませんが。
少々お待ちください。
投稿: robita | 2012年8月 8日 (水) 23時34分
突然のコメント失礼します。
論理展開に無理がなく、深い教養に裏打ちされた美しい文章ですね。
こう淀みなくすらすらと書けたら楽しいでしょう。
内容も共感するところが多く、普段ぼんやり考えてることを代弁してもらったような、不思議な気持ちです。
投稿: あまざらし | 2013年9月 2日 (月) 20時41分
★あまざらしさん
コメントありがとうございます。
身に余るお言葉を戴き、恐縮でございます。
そんなにすらすらと書けるわけではありませんが、喋るより楽で、せめてこれぐらい喋れるといいなあ、と思いながら書いております。
共感くださったとのこと。それが一番の喜びです。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: robita | 2013年9月 2日 (月) 22時52分