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2012年9月10日 (月)

芸術って何

私は子供の頃から歌舞伎鑑賞をしていました。
母に連れられて行っていたわけですが、母も特に歌舞伎ファンだったというわけではなく、父の会社が仕事関係で買わされた鑑賞券を社員の家族に配ったものだったようです。

今の子供だったら、退屈でとても大人しく見ていられないでしょうが、テレビもなかった時代、明るく華やかな舞台は子供の目にも別世界として魅力的に映りました。なによりよそ行きの服を着て歌舞伎座にお出かけ、というだけでわくわくしたものです。

子供の頃から馴染みがあったことに加えて、20代の頃に長唄三味線を習っていましたので、歌舞伎が好きといえば好きです。特に各演目の「見せ場」であるとか、「口上」などには気分が高揚します。

しかし、芸術として歌舞伎をちゃんと理解しているかといえば、率直に言ってよくわかりません。どこが面白いのか説明もできません。

いくら日本の伝統芸能だとはいえ、多くの日本人に歌舞伎に興味を持ってもらうのはなかなか難しいことです。

文楽にも同様のことが言えます。
文楽は実際に観たことはありませんが、テレビ中継などは目にしたことがあって、上手い動きをするものだなあと感心もするし、太棹三味線の重厚な音色に非日常の面白味を感じたりもするけれど、是非観にいきたいと心がはやるほどのものでもありません。

文楽の補助金削減の問題で、橋下大阪市長が文楽の演出にあれこれ注文をつけたことが話題になりました。
日本に帰化した日本文学者のドナルド・キーンさんが「橋下さんも10回観れば、文楽の良さがわかるのではないでしょうか」と仰ったそうですが、本当にそうなら私も10回ぐらい観ればわかるようになるかもしれません。

しかし、何回も何回も繰り返し観なければ芸術とは好きになれないものなのでしょうか。

私は日本の伝統は大事にしなければならないとは思いますが、芸術とは基本的に人それぞれの好き嫌いで取捨選択するものではないでしょうか。

面白くないと感じる人もあれば、非常に面白い、大好きだ、と思う人もいるでしょう。

スペインの片田舎の教会で、キリストの肖像画の修復をめぐって騒ぎがありました。
教会の柱に描かれたフレスコ画を絵画修復の素人である80歳の女性が自分の感性で描き直したら「毛むくじゃらの猿」のようになってしまったというのです。
100年も前に描かれた貴重な教会の財産を、いったいなんということをしてくれたのだ、とマスコミは伝えました。
しかし、実際は「元の絵は宗教画としては結構よくあるタイプの絵だけれども、修復後の絵のほうが味があって好きだ」などと人気が沸騰しているようです。
この騒動は「芸術とは何か」を考える上で格好のテキストとなったと言えます。

「自称インテリや役所は文楽やクラシックだけを最上のものとする。これは価値観の違いだけ。ストリップも芸術ですよ」という橋下市長に、「頓珍漢な発言で恥の上塗りだ」と目くじらを立てる学者(適菜収)がいますが、橋下さんの意見には一理あると私は思います。

今はなくなってしまいましたが、昔、有楽町に「日劇ミュージックホール」というストリップ劇場があって、そのショーの芸術性は高く評価されていたと聞いたことがあります。
アメノウズメノミコト以来の日本の伝統芸能の一つがなくなってしまったことはかえすがえすも残念なことではありませんか。

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日本独特の敬語や言い回しや仕草、四季折々の趣を詠み込んだ和歌や俳句、庭園、建築、和服、料理、さまざまな伝統行事。「日本人でよかったぁ」と思えるそういった美しい伝統と、歌舞伎や文楽その他の興行ものの伝統は立場が異なるのではないでしょうか。

映画やテレビドラマとは全く別の視点で鑑賞すべきものだということはわかるのですが、テレビも映画もなかった頃の大衆の娯楽を、現代の人間が見ても同じように楽しめるはずだ、というのは無理があると思うのです。

楽しめる人は大いに楽しんだらいいし、歌舞伎も文楽もなくなっても構わない、というのではもちろんありませんが、保存の仕方を観客動員に頼るのはもう難しいのではないでしょうか。

だから、人気はないけれど絶滅させては日本の名折れだというような古典芸能は、橋下さんの方針に反して、補助金で守るのが正しいやり方だと私には思えます。

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・・・・・いや、そうではなく、やはり日本人ならば、それらの芸術性を理解すべく、国民の義務と自覚して何度も鑑賞に通うべきなのでしょうか。

歌舞伎や文楽の筋書きや決め台詞が、現代においては言わば「教養」でしかない、などと考えるのは間違っているのかどうか、たっぷりと鑑賞した上でないと、わからないのかもしれません。

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