記憶の中できらめく
子供の頃からアフリカに憧れていた。
手塚治虫の「ジャングル大帝」(オリジナル版)、少年雑誌に連載されていた「少年ケニア」や「少年王者」、学校の図書室で読んだ「ターザン」物語、その映画シリーズ、ディズニーのドキュメンタリー映画「百獣の王ライオン」、リヴィングストンのアフリカ探検記。
子供の冒険心をくすぐる小説や漫画や映画が、あの頃エンターテインメントの世界に溢れていたと思う。
その中でも特に、今でも胸が熱くなるような感覚を呼び起こすのは、アフリカの大自然への憧憬だ。
TBSテレビの対談番組「サワコの朝」(インタビュアー:阿川佐和子)では、毎回ゲストが「記憶の中できらめく一曲」というのを紹介することになっている。
先日のゲスト、登山家の野口健が選んだのは、「風に立つライオン」(さだまさし)だった。
彼は高校生の頃に探検家植村直己の本を読んでいる時にこの歌を聞いて運命的なものを感じたという。
私のようなひねた人間は、歌詞の一部に疑問を感じたりもするのだが、それでも久しぶりに無の境地で聴くと素直にじわっとくるのである。
何より情景描写が胸を打つ。
・・・・・
ナイロビで迎える三度目の四月が来て今更
千鳥ヶ渕で昔君と見た夜桜が恋しくて
・・・・・
三年の間あちらこちらを廻り
その感動を君と分けたいと思ったことが沢山ありました
ビクトリア湖の朝焼け 100万羽のフラミンゴが
一斉に翔び発つ時 暗くなる空や
キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット
何より僕の患者たちの 瞳の美しさ
この偉大な自然の中で病と向かい合えば
神様について ヒトについて 考えるものですね
やはり僕たちの国は残念だけれど何か
大切な処で道を間違えたようですね
去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました
こんな処にもサンタクロースはやって来ます 去年は僕でした
闇の中ではじける彼等の祈りと激しいリズム
南十字星 満天の星 そして天の川
診療所に集まる人々は病気だけれど
少なくとも心は僕より健康なのですよ
僕はやはり来てよかったと思っています
辛くないと言えば嘘になるけど しあわせです
・・・以下略
詩だけでは、それほど心が動かされるとも思えない。音楽の力は偉大だ。
「貧しい国の人々の瞳が美しく」「僕たちの国は道を間違えた」といった表現に多少の違和感を感じてしまうのだが、しかし、そこはもう素直な気持ちになってどっぷりと詩と旋律に浸り、青年期の感受性や正義感を称えたい。
自然の美しさと背中合わせに自然の過酷さがあり、純朴な瞳の裏の貧困や飢餓や無知が人々を醜くする、そんな当たり前のことを強調したところで未来へのエネルギーは生まれない。
便利で豊かな日本に、私たちはこのようにまずまずの安定の中暮らしているわけだが、そのことと引き換えに失ったものはたしかにあるはずで、実現した文明社会は人類が夢見る理想とはほど遠いものであるにはちがいない。
私はターザンにも探検家にもなれなかったけれど、若い頃の熱い思いだけは確かに心にはっきりと刻まれていて、折にふれ、その感覚が甦る。
人生はなかなか思い通りに行かないものだが、感動が人を行動に駆り立てるのはまぎれもない事実で、感動する心を持つ人にとって命尽きる瞬間まで、気分はキリマンジャロの白い雪や果てしない大草原。
辛く悲しい体験をすることと同時に、感動することも人生にはたくさんある。
泣いたり我慢したり胸が熱くなったり、そういう事ってきっとエネルギーになって体にたまっていくのではないだろうか。
そのエネルギーを使って元気に歩んで行ってください。良い未来を作ってください。健闘を祈ります。
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