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2013年10月 9日 (水)

現場では

漫画雑誌「モーニング」に掲載されたMANGA OPEN大賞受賞作「いちえふ」(竜田一人)を読んだ。

どう表現したらいいのだろう。汗だくの体に爽やかな風がさっと吹き抜けたような感じと言ったらいいのか。重いリヤカーを引いて坂道を上がっていたら、後ろから誰かが押してくれたような感覚とでも言おうか。

事故後の福島第1原発で実際に働いていた作者が、作業現場の日常を淡々と描く。
盛り上がりはないが、マスコミや反原発市民団体が「フクシマの隠された真実」だとか「この世の地獄」だとかの言葉で不安を煽り立てることと、現場の作業員たちの見ているもの感じていることとの間には相当の隔たりがあることがわかる。

批判されるべき電力会社の体質や国の対策の不備・遅れなどの問題とは別に、放射能それ自体への正しい理解の大切さについて考えさせられる。

 

2011年3月当時、誰もがそこから逃げようとした恐ろしい現場は、たしかに地獄とみなされていたことだろう。

だから、「放射能なんてほんとはそんなに怖くない」と言うつもりはないけれど、この2年半の間に私たちはいろいろな情報を得て、必要以上に放射能を忌避するのはかえって健康面、精神面、経済面で大きな損失を被ることを知った。

それでも、低線量の放射能にもヒステリックに拒絶反応を起こしてしまう人々がまだまだいるのは事実だ。

しかし、冷静で理性的な放射能への理解が、風評被害をなくし、復興を加速する力となるならば、ただ恐れ慄くばかりでなく、落ち着いて判断することが重要だ。

 

高い放射線量の事故現場では当然のことながら被曝量をチェックしながら作業をする。

一日の許容量を超えないように交代する。

高濃度汚染の現場で働くことも勇気ある行為だが、世界中が放射能を絶対悪として拒絶する中、このようなルポを発表した勇気もまた讃えたい。

新人漫画家ということだが、48歳の作業員竜田氏がなぜこのように絵がうまいのかはわからない。売れないながらもずっと描いていたのだろうか。

まだ店頭にあると思う。ご一読あれ。


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コメント

「いちえふ」ですね。見てみます。物忘れが酷いのでこういう題名は本屋で覚えていられるかしら、と再度眺めたら、ああ、IF、第一福島とと、もしかしたらifをかけたのかしらと、想像。大丈夫、覚えていられそうです。

突発性笑い症候群はしばらく前に治まりましたが、娘たちに伝染してしまっています。元夫の葬儀の時に、2人とも下を向き涙を流して苦痛の表情でどうしたのだろうと思ったら、実は誰かのスリッパが変などの理由で笑いを必死にこらえていたのだとか。nobitaさま、ご同情申し上げます。

投稿: さなえ | 2013年10月 9日 (水) 06時38分

★さなえさん

ととさんのところでコメント書いていらっしゃる方ですよね。よろしくお願いします。

>いちえふ

マスコミで「フクイチ」なる言葉が使われますが、福島第1原発や周辺住民の間では誰もそんな言い方はせず、「いちえふ」というのだとか。
あの漫画のことはラジオで知りました。
ネットで調べてみたら、作者の竜田氏は元々漫画家として活動されていたそうで、「新人」というのは、マンガ大賞で新人賞をとったということだそうです。
写真誌「フライデー」の今週号にはインタビュー記事が載っているそうです。→ http://news.nicovideo.jp/watch/nw790094

>突発性笑い症候群はしばらく前に治まりました<

治るものなのですね。
漫才やコントで笑うのはちっとも不都合ではないのですが、何でもないことで発作が起きるのは本当に困ります。
特にお葬式などでは辛いですよね。

投稿: robita | 2013年10月 9日 (水) 10時08分

初めまして 知人が主婦ブログに参加したので 初めてお邪魔しています。

福島原発が水素爆発直後 元広島大学 現 札幌医科大学の
放射線の専門家 高田教授が普通の服装で福島原発入り口を
訪れ 放射能の線量を計測し このレベルは全然問題ないですと仰っています。時の政権政党の無知と 左翼のプロバガンダが 問題の焦点を誤魔化しています。

技術的に 一次、二次の冷却水の処理が問題の核心で 線量は安全なレベルと 現在もお話されています。

投稿: monk | 2013年10月11日 (金) 10時03分

★monkさん

初めまして。コメントありがとうございます。

>高田教授が普通の服装で福島原発入り口を
訪れ 放射能の線量を計測し このレベルは全然問題ないですと仰っています<

放射能を「正しくこわがるべき」と至極まっとうなことを言う学者は「御用学者」などと攻撃されますね。

汚染水漏れも問題になっています。たしかに、漏れをこのままにしておいてはいけないでしょうが、そもそも、どこの国も原発を稼働するかぎり、放射性物質は外部に飛散するそうです。汚染された水や土壌は結局海に流れるんですね。海とは、汚染物質を希釈する働きのあるものとして考えていいんじゃないでしょうか。
もちろん程度問題でしょうが、海産物が全く食べられなくなるほど放射性物質が海を汚染するかどうかは検査や計算で明らかになるんじゃないかと思うんですけどねえ。
今、世界中の原発が排出している放射性物質は、拡散し、海に流れ、年月とともに薄くなっていきます。半減期の長い核種は原発からはそんなに多く出ていないとも聞きますし。
「トイレのないマンション」と揶揄される放射性廃棄物の問題も、厄介は厄介ですが、フィンランドのように大規模な保管施設を作って、同時に放射能無毒化(あるいは半減期を短くする)の研究を進めていけばいいんじゃないかと思います。

青山繁晴氏のラジオでの発言で勉強させていただきました →  http://www.youtube.com/watch?v=_wDjpJ4_uDU

>技術的に 一次、二次の冷却水の処理が問題の核心で 線量は安全なレベルと 現在もお話されています。<

そうですか。

>左翼のプロバガンダ<

批判精神も警告も必要ですよね。でも彼らは恣意的に不安を煽ったり、わざわざ大げさに騒ぎ立てて国益を損ねるようなことをしますね。まさに「つけ火して けむり喜ぶ なんとやら」


投稿: robita | 2013年10月11日 (金) 23時15分

仰る 通りですね、 最近では原発も小型化し 放射能の心配のない 原子炉も開発されているといいます。

マスコミが 報道しないのが残念です 確か?東芝だそうです。

投稿: monk | 2013年10月12日 (土) 09時48分

★monkさん

>放射能の心配のない 原子炉も開発されているといいます。<

そうなんですか。頼もしいですね。
科学技術というのはやはり封印するのでなく、それを土台として次のステップに進むものなのではないかと思います。
時間はかかってもそうするのがより良い発展につながると信じます。自分が研究開発に携わるわけではないので大きなことは言えませんが、人類の科学力に期待したいと思います。

投稿: robita | 2013年10月12日 (土) 14時09分

読んで見たいと思います。
ペンネーム、たったひとり、と読むんでしょうね。ニヒルなネーミングだなと、おもいました。

投稿: 街中の案山子 | 2013年10月14日 (月) 15時32分

★街中の案山子さん

よく知らないのですが「モーニング」が週刊誌であれば、もう1週間以上たっていると思うので、本屋さんには既にないかもしれません。
古本屋さんで手に入るかもしれませんね。

「たつたかずと」さんだそうですが、仰るとおり、「たったひとり」と読めますね、と紹介した人も言っていました。

投稿: robita | 2013年10月14日 (月) 21時56分

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