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2014年6月20日 (金)

追悼 ダニエル・キイス様

作家のダニエル・キイスが亡くなった。
single40さんの追悼記事を読んで私も少し書いてみようかと思った。 


「アルジャーノンに花束を」は、たぶん生涯で私が一番好きな小説かもしれない。

他にも好きな本は数々あるけれど、半世紀近くも前に読んだこの作品から受けた感動は折にふれてよみがえる。

「--------ひくい知能がくらい部屋をすかして、鍵穴をとおして、戸外のめくるめく陽光をかいまみていた-------」といった表現に正鵠の共感を覚えたのも、うすのろまぬけであった子供の頃から「遠くに明るい場所がかすかに見える。あそこに行けばみんなと同じように考えることができるのだろうか」と、もやのかかったような頭でぼんやり感じていたからだろう。

知能の発達と急激な後退の過程に心が震えた。最後は泣きに泣いた。


この作品が収録されている「ヒューゴー賞傑作集」を編集したアイザック・アシモフが、ヒューゴー賞授賞式のことをその前書きで書いている:
 ≪皆さんよくご存知のように、私にとっては、毎年受賞者にヒューゴーを手渡すのが、じつに辛い仕事なのだ。とくに私自身の作品で、ヒューゴーに値するのが、半ダースやそこらはあるというにおいておやである。むろんこんな感情は、私はみごとな手ぎわで隠してしまう--------だが、さすがに私もただ一度だけは、その感情を持たなかったことがある。

  それは第18回大会(1960年 ピッツバーグ)のときで-------これは純粋に私の個人的意見だが、いままでの全大会を通じてもっともすばらしい、もっとも成功した大会だった-------私がダニエル・キイスに「アルジャーノンに花束を」で受賞したヒューゴーを手渡した瞬間であった。≫

 ≪私の言葉は情熱的に会場の空気を振るわせた。「どうしてこんな傑作ができたのでしょうか?」と、私は芸術の女神にむかって訊いた。「どうして出来たのでしょうか?」
         
            
--------略------------
  
  すると、ダニエル・キイスのまるい、優しい顔が、あの不滅の言葉をささやいたのである。
 「ねえ、もしあなたに、どうしてわたしがあの作品が書けたかわかったら教えてくれませんか。私ももう一度あんなのを書いてみたいんです」≫

 

私が読んだのは短編だが、ずいぶん後に長編として書き直された。一応買ったが読んでいない。機を逸してしまったこともあるが、あの時の感激だけで充分だという思いがあるからでもある。

「まごころを君に」の題名で映画化された。モノトーンの素朴な印象のその作品もよくできていた。

主演のクリフ・ロバートソンの演技が秀逸で、アカデミー賞主演男優賞を受けている。私はこの授賞式の様子をテレビで見たが(アカデミー授賞式やその周辺は今のように派手でなかった)、地味な作品で受賞するとは思っていなかったのか、彼は現場におらず、代理人がオスカーを受け取っていたのを覚えている。

人間性を育ててくれたのかもしれない海外SFの巨人たち、アーサー・C・クラークもブラッドベリも死んでしまったけれど、若い時に出会うことができて本当に幸せだったと思う。

ありがとうございました。


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コメント

作家名は知らなかったけれど、娘が確か高校1年のときに話題にしたので、その際に読みました。そして、先日子供部屋の本棚を整理したとき、その本がまだあり、内容もめずらしく記憶に残っているものだと手にとって眺め、廃棄処分に。
そうですか、robitaさんにとって、貴重な一冊だったのですね。

投稿: 案山子 | 2014年6月21日 (土) 09時45分

私はいわゆる根性無しです。息子がプレゼントしてくれた本でもありますが、その前に図書館で借りて、主人公の気持ちになりきってしまい、途中で怖くてどうしても読み続けることができなくて返却してしまった後に貰い、申し訳ないけどと息子に詫びて他の本と交換しました。
どうも本に熱中しすぎるのか、ある種の本を読むと体調を崩したり精神的に不安定になります。情けないです。

投稿: さなえ | 2014年6月21日 (土) 10時10分

★案山子さん

長編が出た時、若い人の間でブームになったようですね。私の甥(今40歳くらい)も読んでました。
私が持っているのは普通の文庫本でなく、ハヤカワSFシリーズの銀の背表紙で丁度イギリスのペーパーバックのサイズです。もうとっくの昔に絶版になったものなので、きっと金目のものです 先ごろ復刻されたと聞きましたが、本屋さんで見かけませんね。

投稿: robita | 2014年6月21日 (土) 22時48分

★さなえさん

>ある種の本を読むと体調を崩したり精神的に不安定になります。<

そうですか。何らかの体験がおありなのかどうかわかりませんが、それだけあの物語の描写が(設定は荒唐無稽にもかかわらず)リアルに迫ってくるということでしょうね。
英語版を読んだことがあって、チャーリーの拙い文章はなかなか興味深かったです。

投稿: robita | 2014年6月21日 (土) 22時49分

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