最先端
元アナウンサーの下重暁子氏(79歳)が「家族という病」という恐ろしいタイトルの本を出してベストセラーになっているそうな。
彼女の言い分をテレビで見たことがありますが、幼いころから家族というものに並々ならぬ不信感を抱いていたようです。
父親は感情の起伏が激しく横暴で、ひたすら従属する母は唯一の心のよりどころである娘暁子に過剰な愛を注ぎます。
下重さんは家族という重荷に耐えきれず、高校生から家を出て独り立ちし、アナウンサーという職を得ます。
彼女は結婚しましたが、子供は儲けず、ご主人とは別居で別々に生計を立てています。気が向いた時に会う程度のつき合いで、「夫だなんて思ったことない」そうです。
家族ほどしんどいものはない、家族を盲信する日本人、人聞きの良い家族が良い家族だと思われている、等々、下重さんの徹底した家族否定の語録が並べられていました。
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そしてもう一つ、一か月ほど前、NHK土曜ドラマ「2030 かなたの家族」というのがありました。キャプションに「最新の近未来予測や取材をもとに、ある家族の15年後を描く物語」とあります。
50代夫婦、20代長男長女、祖父母の6人家族。
妻の単身赴任がきっかけで夫婦は離婚し、子供たちもそれぞれ独立したが、みんなで暮らしたニュータウンの一戸建に、一年に一度は家族が集まって一緒に食事をするという習慣を続けている。
シンガポール赴任が決まった長女の提案で、恒例の会食に終止符を打って家族解散ということになった。
祖父母は安全で快適な高齢者居住区「シティ」に住み、その事業立ち上げに関わった妻はそこで責任者として働く。
長男は35歳以下限定のシェアハウスに住みながら家庭用ロボットの開発とメンテナンスの仕事をしている。
家族が暮らした一戸建てには、「我が家」に執着する夫が一人で住み、再び町に活気を取り戻そうと、さびれたニュータウンの管理事務所で今も働く。
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物語の展開を書いていると長くなりますが、示唆に富んだなかなか面白いドラマでした。
大きなミスをしてシンガポールの会社を辞め、離婚も経験した傷心の長女はふと子供のころ暮らした町に戻り、家族ではない気の合う仲間たちとコミュニティを形成して自己満足に浸るも、結局裏切られて一人ぼっちになり、「家族」という土台の存在に気づくのです。
誰かに振り回される人生は嫌だ、一人で自由に生きたいと、そう願う一方で、人はやはり誰かと一緒にいたい。
個の自由を得た時代には、家族以外の理想的な仲間たちとならうまくやっていけると信じてしまうのでしょうか。
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どこの家庭でも大なり小なりトラブルはあるものです。誰も理想を夢見て家族を盲信しているわけではない。
面倒くさく、しんどい思いをしても、それを補って余りある価値を見出すから人は家族を作ろうとするのでしょう。
血縁で繋がっているからこそ憎しみが倍増することもあるでしょう。それをなんとか調整して一つの形を保とうとするその葛藤にこそ意味があるのだと、それは昔から言われてきたことじゃなかったでしょうかねえ。
家族はトラブルの元だからそんなものはいらない、と徹底した個人主義を貫く下重暁子さんの意志力には感心しますが、自分の家族の過酷な事情をもって一般論とする強弁には同意できません。
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「自分のためだけじゃない人生っていいなあ、って。 一人でいるとだいたいの問題を避けて生きられるじゃない? でも子供を産んだらどうしても避けられないことってあると思う。そういう苦労を一つ一つ乗り越えていきたい。」
ドラマの中で長男のシェアハウスメイトの女性が言った台詞、こんな言葉でもわざわざ絞り出して自分を納得させないと人は子供を産まない時代になっちゃったんだなあ、としみじみ思いました。
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家族というのは、時代遅れの概念ではなく、子孫繁栄と幸福のための最も有効な手段として人類がついにたどりついた最新のシステムじゃないでしょうか。
これより新しいものを想像すると何だかゾッとします。
<おしまい>
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コメント
robitaさん
こんにちわ。
昨日、というか夜中にたまたまBSフジの「ブラマヨ弾話室」という番組を途中から見ました。
お笑い芸人、文化人や政治家も一緒に少子化・晩婚化について話していました。政治家はこういう政策をやっています、こういう補助金をもっと増やせないか、と言っていました。
それは違う、と思っていたら、ブラックマヨネーズが
「政策ではなくてもっと心の問題なんや」「きれいな男や女がシェアハウスに住むドラマがあるけど、あれオレらみたいな顔の男女にしたらええのに」と言い、それには「そうそう」と思えました。
友達とラインするのに邪魔だから特定の男性と付き合うのを面倒くさいという若い女の子たちがいるという話もしていました。世の中で一番面白いことがラインって、何なの? と思いますが、そう思うのは個人の自由なのだそうです。
イラン人の出演者によると、イランでも少子化している、ということでしたが、世界中で家族が面倒くさい存在になっているのでしょうか。
面倒で困難なことを乗り越えて人は強くなると思いますが、強い大人になどなりたくもないということかしら。
投稿: kai | 2015年11月 9日 (月) 11時50分
★kaiさん
>「ブラマヨ弾話室」<
そんな面白そうな番組があったんですね。知らなかった。来週から見ます
お笑い芸人はやはり頭が良いのか真っ当な指摘をする人が多いですね。
特にブラマヨのユーモアたっぷりの鋭さが私は大好きです。
>世の中で一番面白いことがラインって、何なの? と思いますが、そう思うのは個人の自由なのだそうです。<
まあ、本人たちが一番面白いと思うのならそれは仕方がないのでしょうけど、そういう人たちが親になることを考えると大丈夫かなと思ってしまいます。
昔よく言われた「漫画、テレビは害毒」と同質の現象なら心配はないかもしれませんが、ラインって文化の類になり得るんでしょうかね。
>面倒で困難なことを乗り越えて人は強くなると思います<
仰るとおりですね。
>強い大人になどなりたくもないということかしら。<
むやみに優しさが求められる時代ですが、強くなくてもよいということではないんですけどねえ。
投稿: robita | 2015年11月 9日 (月) 14時17分
今や女性は「生む機械」ではないわけです。そんなこといった日には、せっかく当選して得た代議士の座もパーでして(笑)。
そうすると、まず「家族」から「生殖」という要素を除外して考える必要があります。
となると、やはり「経済」がポイントになるでしょう。
たとえば、カリスマ大人気ブロガー、藤沢数希氏の意見などは、実に合理的です。
http://nikkan-spa.jp/523474
経済的に考えれば、現在の結婚制度はリスクに対してリターンが低すぎますので、避けるようになります。これは、悲観するべきことでなくて、人々が感情でなく理性で行動するようになった必然ですから、やはり進歩というべきなんでしょうね。
言うまでもなく、子供の育成は親の大きな目標と思いますが、親自身が競争社会で疲弊しているなかで、結婚生活にも特段のメリットもないし、それなら各種の負担が増えるだけだから、子供を持たない(必然的に子育てをしない)というのは、十分に合理的な思考の結論だと思います。
政府は、国民に対して不合理な結論を期待するのではなくて、合理的な結論を支持されるような政策を打ち出す必要があるんです。
そうすると、結論はでていて「そりゃあ無理」だということですね。
かくて、少子高齢化は進むしかありません。
このままでは日本民族は滅びるかもしれない、、、の
ですが、よくよく考えると、、品のないシナが米国を抜いてどんどんのさばり、歴史を直視できない韓国が我々の子孫に永久に「謝れ」と言い続ける未来が待っています。
おまけに、生まれた時から国公債の借金が800万円以上ですよ。
私としては、個人的には「子供を作らない人(もちろん結婚しない)」理由は論理的にじゅうぶん納得できますけど、そうでない人の話は単なる感情論で他人に対する説得力はないと感じます。
現代社会の仕組みは、理性が優先ですので、もろもろ必然的な結果だなあ、と思っています。
「賢い人が偉い」という考え方を捨てれば、また別なんですけど、ね。
投稿: single40 | 2015年12月 4日 (金) 02時06分
★single40さん
無事のご帰還、お慶び申し上げます(笑)
感情と理性の問題ですが、対立軸でも二者択一でもなく、合理的だとか理不尽だとか科学的だとか非科学的だとか経済的だとか不経済だとか、そんなものが混ざり合って人間という不可思議なものの生存及び発展が支えられてきたんじゃないでしょうかねえ。
それはさておき、どんなに感情に訴えようが、仰るように、少子高齢化は進むしかないでしょうし、現代社会の仕組みは必然の結果だと思います。少子化もグローバル化も必然と言うしかありません。
今後、人工知能が人間を超え、宇宙創成の秘密が明らかになっていくプロセスの中で、感情をベースにした人間の素朴な営みはほとんど意味を成さなくなっていくかもしれません。
それでもやっぱり、と、いわゆる「人間らしさ」にしがみつきたいのが人間であり、数々の未来小説が往々にしてそういった未練がましさで結ばれているのも頷けます。
哺乳動物の温かみに決別する時ってくるのでしょうかねえ。
>「賢い人が偉い」という考え方を捨てれば、また別なんですけど、ね。<
うん、なるほど。
投稿: robita | 2015年12月 4日 (金) 10時36分