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2024年3月29日 (金)

もとの濁りの田沼恋しき

江戸中期の幕府老中田沼意次は賄賂政治家という悪名を着せられた人物ですが、実は先進的な経済政策を打ち出した有能な政治家であった、という見方が広まったのは1970年代以降だそうです。

山本周五郎「栄花物語」に登場する田沼意次は、国の将来を見据えて幕政改革に全力を傾けるも幕府内の敵対勢力や世論に押しつぶされるように失脚した悲劇の人として描かれています。
「栄花物語」は昭和28年に刊行されたそうですから、小説家の山本周五郎は早くから田沼意次の真実に目をつけていたということになります。

文庫版の巻末に作家の沖方丁氏の「山本周五郎と私」というエッセイが掲載されています。
その中に次のような記述がありました。

≪本作を読んで田沼に同情しない人はいないだろう。そのくせ、現代の政治家や官僚に対しては、当時の世人が田沼にしたようにする。
政治経済という奇怪きわまりないしろものは、不可解であるということ自体がストレスになる。自分の生活を左右するにもかかわらず、よくわからない。わからないことに腹が立つ。だから、わかりやすく批判できる人物がいると安心する。わからない鬱憤をぶつけることができるからである。≫

 

現代にいたるまで田沼意次の実像が知られることなく強欲な金権政治家という烙印を押されたままだったのは、いったん悪評が広まると容易なことでは覆せないということを表しています。

幕府内の抵抗勢力や、あることないこと面白おかしく描く「戯作」といわれるような通俗本(今でいう週刊誌のようなものか)が有能な政治家を潰してしまい、時代を越えてその悪評は受け継がれていきました。

現代でも同様のことが起こりますが、様々なメディアが発達した今の時代なら速やかに異論反論が寄せられて訂正され真実が明らかになりそうなものなのに、大衆は悪い噂の方を信じたがるものなのでしょうか、悪評は容易に払拭されません。

 

気の毒な田沼意次は生まれ変わればきっと幸せな人生を送ることだろうし、よくわからないまま風評に乗ってはしゃぎまわるお調子者は来世でもやっぱり雑魚としてしかふるまえないのだろうと思います。

そうとでも思わないとやりきれない。


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コメント

池波正太郎の小説『剣客商売』の田沼意次も、大局観のある老獪な政治家として登場します。お妾さんもいたし、日本人が政治家に求める「清貧の人」ではありませんが。

投稿: kai | 2024年3月30日 (土) 07時50分

★kaiさん

「剣客商売」は大好きな小説です。大治郎が娶る三冬は田沼の側室が産んだ子ということになってますね。
このシリーズが最初に書かれたのは1970年代だそうですから、山本周五郎の田沼観を受け継いだものか、それともこのころには悪評も見直され始めていたのでしょうね。
たしかに、一国の政治を行うにはきれい事だけで済むはずがなく、根回しや裏工作のためにお金も使うこともあったでしょうし、田沼による経済改革によって大きな格差も生じたといいますから、恨まれる側面も大いにあったと思います。
「栄花物語」では田沼はずいぶんと温和で清貧に描かれていますけど。

投稿: robita | 2024年3月30日 (土) 12時02分

わたしも「剣客商売」の大ファンです。平幹二朗の田沼はいいですねえ。あれが実態だったんじゃないかと思ったりします。
田沼は、貨幣経済を推し進めた結果、町民は豊かになり、歌舞伎、浮世絵など江戸文化が花開いた。
天明の飢饉の対処でつまずいて失脚、後を引き継いだ松平定信は、寛政の改革「倹約令」で緊縮財政をとった。結果、経済は低迷し、町人は苦しんだ。
「白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき」は納得ですね。
それにしても政治は生き物ですね。その時その時の状態に合わせて変化してゆかなければならない。変化なきものは滅ぶ。それには同じ人間ではなかなか難しいです。世代交代しかないと言うことでしょうか?

投稿: 十七匹橋 | 2024年4月 2日 (火) 13時49分

★十七匹橋さん

>平幹二朗

これは藤田まことのシリーズですか?私は北大路欣也版での國村隼の田沼しか知らないのです。
テレビの時代劇チャンネルで藤田まことの剣客商売はよくやってますので、今度見てみます。

>それにしても政治は生き物ですね。その時その時の状態に合わせて変化してゆかなければならない。<

本当に仰る通りだと思います。
時代によってその時々の為政者の運不運も左右されてしまうように見えますが、踏襲だけに陥らずその時勢をしっかり読んで変わることを恐れない政治家こそが良い政治家なのかもしれません。

投稿: robita | 2024年4月 3日 (水) 07時48分

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